日本に詳しい外国人ほど、日本で働きたがらないという問題

先月まで雪が降っていたエストニアも5月も半ばとなった現在はほとんど初夏のような陽気です。日本のみなさんはお元気でしょうか。

ちょっと前の話なんですが、あるパーティーでタリンを訪れているフィンランド人の学生たちと歓談する機会がありました。ヨーロッパには「エラスムス計画」という国境を越えた学生交流プログラムがあって、たしかその制度を利用してエストニアを訪問している学生たちだったと思います。

そのなかのひとりに東アジア研究を専攻しているという学生がいて、日本社会の事情にも詳しいらしかったのでいろいろな話をしたんですが、彼は、

「日本にはぜひ行ってみたいなあとずっと思っているよ。住むのは無理だと思うけど(笑)」

なんて言うんですよね。

「住むのが無理というか、日本企業で働くのが絶対に無理なんだよね。朝から真夜中まで働いて、タクシーで家に帰ってちょっと寝たらまた起きて出社、みたいな日本の会社員の生活は絶対にできない!」

「もし日本で働くとしたら、フィンランド系企業を見つけなければならないだろうなあ。日本企業で働いたら人生を楽しむ時間が無くなってしまう…」

ですって。

まあ彼は実際に日本に来たことは一度もないわけですから、日本の労働環境についてはニュースやインターネットの情報などを通じて知ったんでしょうねえ。

(ただしいまどきタクシー券出してまで残業させる会社はそんなにあるかな…)

わたしはヨーロッパに来てから少なくない「日本研究」「東アジア研究」の学生たちと出会ってきましたが、やはり「日本に詳しい人ほど、労働環境をはじめとした日本の暗部もよく知っている」という傾向がありますね。

また、特に女子学生は日本の女性労働者の置かれている環境についてグロテスクに感じるという人が多いようです。北ヨーロッパは日本に比べて男女の格差が少ないですから。

「アジア研究が専攻なのでもともと日本に詳しい」という学生でなくとも、日本の労働環境の劣悪さについて聞いたことがあるという人は多いですね。「過労死」という日本語が、ヨーロッパでもそのまま “karoshi” で通じてしまうくらいです。日本特有の現象なのでヨーロッパの諸言語ではひとことで言い表せないのでしょうね…。

日本は世界最悪の少子高齢化社会を抱える国ですが、いまさらになって労働力不足の深刻さに気付きつつあるようで、どうやら海外から労働者を呼び寄せる必要がありそうだぞ、なんてことを政府で議論していたりします。

歴史的に移民の受け入れを拒否してきた国ですから、「高度技能人材に限定して受け入れればよいのでは」なんてことを考え始めているようです。でも普通に考えてこれはうまくいきませんよね。今後すさまじい超少子高齢化社会の到来が確実で、年々賃金が下がり続け、産業が衰退し、衰亡が必至であろう国に、わざわざ自ら移り住んでくれる高度な技能を持った外国人が、はたしてどれだけ存在するのでしょうか。

本当に外国人労働者に来てもらいたいと思うのだったら、「最低限、事業者に労働基準法を遵守させる」くらいは徹底させたらいいのではないかと思うんですが。

「あ、日本では労働基準法ってのはあってないようなもので、サービス残業は嫌だの有休が取れないだのと不満ばっかり言ってたらこっちでは働けないよ!」

などと言ってたら、まあヨーロッパの人は呼べないんじゃないですかね(笑)

しかし日本国の政府はどうしてもずれた方向にいっちゃうようで。ああー、こういうのって日本らしいなーと思います。

政府は、アニメや漫画など海外で人気がある日本文化「クールジャパン」分野で高い技能や意欲を持つ外国人について、日本への定住を促そうと、永住権を取りやすくする制度改正を行う方針を固めた。今年夏の実現を目指す。政府筋が26日、明らかにした。多様で優秀な人材を取り込むことで日本文化の発信の担い手を増やすほか、海外へ売り込む際の「橋渡し役」を担ってもらうのが狙いだ。

(引用元:https://this.kiji.is/340795387764933729

日本では相変わらず「自国礼賛番組」がテレビで繰り返し流されていると聞いています。外国人に無理やり日本を誉めさせて悦に入る、というコンテンツですが、「日本のアニメが大好きだよ!」とか「日本の漫画は世界一!日本ダイスキ!!」みたいな日本を無条件で絶賛する意見ばかりを放送していると、政府までもが

「そうだ!!『クールジャパン』関連の技能を持つ外国人への優遇策を提示すれば働きに来てくれるんじゃないか!? 日本は彼らにとって憧れの国のはずだから、優秀な才能が我こそはと集まってくるに違いない!!」

なんて考えるようになっちゃうんですねえ。

まあポジティブで楽観的なのは悪いことじゃないんですが、こんなアイディアが出てきちゃうって、なんとも日本らしいよなあ…。

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